今、茨城県のほうれん草と福島県の牛乳から食品衛生法の暫定基準値を上回る放射線量を検出したということを官房長官が報告しています。あいかわらず内部被ばくを無視した国際放射線防護委員会の基準ですので、厚労省に問題をまかせるのは問題だと思います。以下に素粒子論グループのMLのものを添付します。

沢田昭二

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>素粒子論グループの皆様

私は1990年代の終わり頃から、原爆被爆者の急性症状発症率やがんなどの晩発性障害のリスクなど、被ばく実態から逆算して、初期放射線(便宜的に1分以内)による被ばくだけでなく残留放射線(1分以後)による被ばく影響を研究してきました。初期放射線被曝は、瞬間的な外部被曝でが、残留放射線による被曝は体外被ばくだけでなく、放射性物質を体内に摂取したことによる内部被曝の影響が重要になります。

しかし、これまで米国の核兵器使用政策によって残留放射線による内部被ばくは軽視されてきました。1947年にトルーマン大統領の命令で広島と長崎に発足したAtomic>Bomb Casualty Commission(ABCC)は初期放射線による被曝影響を明らかにする研究設計をして、遠距離被爆者や入市被爆者を原爆放射線による被曝をしていないコントロール(比較対照群)として、放射性降下物による被曝影響を無視して初期放射線によるがんなどの死亡率を中心に被曝影響の研究をしてきました。T65DDS86DS02などの原爆放射線線量評価も初期放射線の線量推定値です。被爆者どうしを比較しているという批判と疫学研究におけるポワソン回帰分析に基づく内部比較法と言う対照群を設定しない方法ができるようになって、DS86DS02の計算値を用いてこれを確率変数とする遠距離被爆者も含めた疫学研究が行われていますが、初期放射線被曝線量を確率変数とする限り放射性降下物による被曝影響は取込むことができません。

1975年にABCCが閉鎖さされて日米共同運営になった放射線影響研究所がおこなった疫学研究の結果を2000年になって広島県民や岡山県民と比較すると(渡辺,宮尾らの研究)初期放射線による被曝線量がほとんどゼロとされた爆心地から2km以遠の被爆者もかなりの被曝をしていることが明らかになりました。これまで放射性降下物による被曝は、原子雲から降下した放射性降雨が地表を流れ去らないで地中に浸透し、その後の火災雨や台風などの雨で流されないで雨で運ばれてきて地中に残った放射性物質からの放射線を測定した結果から放射性降下物による被曝線量を推定していました。しかし、放射性降雨の雨滴が小さい場合には降下中に水分を蒸発させて放射性微粒子になり、とくに原子雲の周辺部の下の広範な地域はこうした放射性微粒子が充満していたと考えられます。たとえば昼前に原爆が投下された長崎では、真っ黒い空に真っ赤な太陽が火の玉のように浮かんでいたという証言が多数あり、また、蓮の葉や建物に灰がつもっていたという証言もあります。ネバダの核実験では水滴が小さく原子雲は12分程度で消滅して放射性降雨は無く、放射性微粒子が200km300kmの風下まで到達したことをあらかじめ配置していた測定によって明らかにされて等放射線曲線を描いた地図もつくられています。

こうしたことから、広島・長崎原爆による放射性降下物による被曝影響は、被爆者の間に発症した脱毛、紫斑、下痢などの発症率と被曝線量の関係、がんなどを含む晩発障害の発症リスクや死亡率、染色体異常の頻度などから推定することになりますが、こうした貴重な資料が多数ありながら,これまで十分活用されてきませんでした。2000年頃からこうした資料を解析して爆心地から1200m以遠では放射性降下物による被曝影響が初期>放射線被曝影響を上回ることを見出し、広島では爆心地から4kmから6kmで内部被ばくが主要な影響を与えて、約0.85シーベルト(これはグレイなどのように物理学的な1kg当たりの吸収エネルギー1Jや生物学的効果比を乗じたシーベルトという意味ではなく、一様な被ばく影響を与えるガンマ線による外部被曝と同等の急性症状あるいは晩発性障害を発症させる線量というeffective>doseの意味です)、長崎では5kmから12kmにおいて1.3シーベルトという結果を得ています。ごく最近、広島大学原爆放射能医学研究所の早川らが行った広島県民と広島県在住の被爆者を比較した研究報告を見つけてがんの死亡率を解析すると広島の爆心地から2kmから6kmの被爆者の放射性降下物による被曝線量が急性症状発症率から求めた0.85シーベルトとなることを見出しました。

こうしたことを原爆症認定集団訴訟に意見書として提出し、証人尋問で報告し、国側の反論を論破して、被爆者側が27連勝をしています。

さて、福島原発で測定されているのはガンマ線で、地域住民や、給水作業に従事している人たちの被ばくもガンマ線による外部被曝ですが、マスクなどの防護をしていても、呼吸をしているので内部被ばくも無視できないと思いますが、こうしたことを配慮した発表や報道が見られません。テレビに出てくる科学者は、集団訴訟で政府側の証言をした人が多いので、心配です。官房参与となった方も、もと原子核研究所にいた人ですが、内部被ばくについてはまったく否定してきて、原発は安全だという講演をして廻ってきた人です。

電源供給がうまくいって給水が順調にいくことになれば、今度は壊れたところを塞いで放射性物質の飛散を防ぐ手だてが重要になり、原発周辺の避難地域に自動測定と測定値を発信する装置を配置し、そのデータを解析して放射性物質の飛散を時々刻々と把握して被ばくを出来るだけ避ける措置をとること、さらに作業に当たった人々の健康管理を国の責任で行うことが必要です。

こうした問題に関心がおありの方には、名古屋大学の救急医療センターから福島県に派遣される医師の質問に答えたQ&Aをお送りします。

沢田昭二